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2021年06月04日

爪句集覚え書き-48集

 コロナ禍で世の中オンラインで仕事や勉強、さらに趣味の実行が潮流になってきていて、著者もその流れに乗ろうとそれなりの努力をしている。実際この爪句集シリーズの出版では、校正等の打ち合わせには担当者とオンラインで行うようになっており、直に顔を会わせての作業は無くなってきている。出版社よりは、作家個人がオンラインを使えるようになってきて、この状況が生み出されているともいえる。
 著者は、コロナ禍以前は画廊を借りてスケッチ展や写真展を行っていた。しかし、昨今のコロナ禍では人に来てもらっての展覧会は自粛せざるを得ない。そこでネットを介してのオンライン展覧会が頭に浮かぶ。これも昨今の世の中のオンライン化に合っている。オンライン展覧会では会場代を払わなくもよく、期限や時間の制約のない展覧会で、来場者もパソコンの前に座って観賞できるので、趣味のレベルの展覧会としては、主催者は気楽に行える。
 ただ、ブログの記事として絵や写真を並べるだけなら芸がない。そこで本爪句集のように会場の背景の壁、あるいは作品を飾る額として空撮の全球パノラマ写真を利用する事にした。本爪句集に収録したスケッチは、既にスケッチ集や画文集で出版している。それをA7判サイズにして再出版しても二番煎じで新味にも欠ける。しかし、空撮全球パノラマ写真にスケッチを取り込み、パソコンやスマホで拡大された景観の中でスケッチを鑑賞する方式は新機軸の展覧会である。
 オンライン展覧会に利用した空撮全球パノラマ写真は、最初から展覧会用に撮影したものではない。単に景観の記録として撮影し処理したものを適当に選び出してきて利用している。会場の背景や額に見立てた空撮パノラマ写真はスケッチとは無関係である。通常のリアルな展覧会でも会場の壁や額は絵とは無関係である。スケッチを描いた場所で撮影した空撮全球パノラマ写真を背景にしているなら、同じ対象でスケッチ展と写真展を同時に行え、オンライン展覧会の究極の形式である。しかし、最初からそのアイディアがあった訳でもなく、後にスケッチと空撮パノラマ写真を組み合わせる考えに至っている。スケッチと空撮を並行して行うところまで、状況は今のところ進んでいない。
 さて、本爪句集ではスケッチを天空部分に貼り込んだパノラマ写真に爪句と説明文を加えて作品にしている。ここで爪句と説明文をテキスト表現の作品とすると、爪句が鑑賞対象の絵に相当するものであり、説明文は展示場の壁か額に対応したものと考えてもよさそうである。展覧会の絵はそれなりの額に収めて、それなりの会場の壁に掛ける必要がある。同様な事が爪句とその説明文の関係に当てはめる事ができそうである。爪句を飾る額や壁紙としての短い文章があると考える。しかし、作家のこのような理解に対して、鑑賞者は作家とは別の見方をするかもしれない。
 このオンラインのスケッチ展では、スケッチよりは背景にしている空撮パノラマ写真に鑑賞の目が行くかもしれない。立派な額に収まった下手なスケッチより、額の作りの見事さに注意が行くようなものである。スケッチの単なるキャプションの爪句より、説明文の方が短文文芸として評価されるかもしれない。キメラのような爪句写真集では作品の「主」と「従」が入れ替わる事は十分にありうる。ただ、本爪句集の作品を「絵と額」の関係で捕らえるとわかい易いのも事実である。
 リアルな展覧会では作家が会場に詰めていて、来場者と歓談したりする。オンラインでもそれは可能で、作家がパソコンの前に座っていて、オンラインを介して入場した来場者の顔をみながら説明はできる。オンラインの画面を2面持って、メインの画面で会話を行いサブの画面に作品を展示すれば作品見ながらの説明を進行させる事ができる。何かの企画のプレゼンテーションと変わらない。しかし、実現可能なネット環境にあっても、実際に実行してはいない。それまでして来場するネット観客がいない上に、主催者も来るか来ないかの来場者のため、常時パソコンの前に座っているのも大変だからである。
 本爪句集は上記のようなオンライン展覧会の作品カタログともみなせる。しかし、このカタログは常時展覧会場に直結している。スマホ等で爪句集に印刷されたQRコードを読み込むことで展覧会場に入場できる。これはリアルな展覧会では実現できない、新しい形式の展覧会である。このようにネット空間とつながった本は本の可能性を拡大し、紙媒体としての本の生き残りにもつながるものである。
 技術が進歩し広く社会に受け入れられると展覧会一つとっても新しい可能性が見えてくる。本爪句集は小さな豆本であるけれど、そのような大きな可能性を追いかけた試作品ともみなせる。

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