爪句集のシリーズの出版を続けて来て、いつ頃からだろうか、50集目まで出版しようと思うようになった。その目標を他にも公言してきている。本爪句集は47集目になり、50集目の出版が指呼の間に入ってきている。多分著者が今年80歳になり、その歳のうちに実現できるのではないかと予想している。この状態になると早く目標が達成できないかと、爪句集の製作を急ぐようになっているところがある。その作業を急ぐあまり、雑な仕事になっているのではないかとも危惧している。
爪句は「画像処理法サムネイル(thumbnail:親指の爪)に付けたファイル名の句」に由来し、写真のキャプションから出発している。写真を検索するためのファイル名を単なる通し番号や日付から、少し手の込んだ俳句形式にしておく。こうすると写真集の出版を考えた時、写真に関する説明を膨らませる事ができそうだ。さらに爪句を文芸の域にまで高める事も可能かもしれない、と思いながら50集目が視界に入ってくる。すると、作品を乱造気味に創り出す作業に入ってしまう。
本爪句集のテーマでは、空撮パノラマ写真と花や野鳥の写真の組み合わせる妙を追い求めている。この点も爪句作りの焦点をボケさせる結果につながっているかもしれない。空撮パノラマ写真は写真家としての感性が要求されるものではない。ドローンを飛ばし、ドローンが収集する写真データを処理しているだけで、もし写真家の立場を強調するとすれば、写真データ収集に関連して、景観の場所と時の選択に留意するぐらいだろう。その空撮パノラマ写真の天空部分に貼り付ける花や野鳥の写真であってみれば、1枚の大写しの写真で読者の共感を得る、といった芸当を披露する事は難しい。
一方、空撮パノラマ写真の処理と別撮りの花や野鳥の写真の合成処理にはかなりの時間がかかる。その処理を終えて爪句と説明文を書く段階になると、仕事を早く終えたいという心理的状況も加わり、写真の説明になっていればそれでよし、の方針に軸足を移す。従って、本爪句集のように200枚もの多数の作品を揃えなければならぬ状況に立ち至っては、単なる写真のキャプションから抜け出したような爪句を創る意欲が薄れる。
本爪句集のテーマを思い付かせた宗谷岬の日の出時の空撮パノラマ写真と、日の出を待つ間に撮影した海中の岩場に止まっているサギの写真を組み合わせた作品を示しておく。爪句は「日の出待つ 宗谷岬の 岩場サギ」にしている。写真の説明を5 7 5で行えばこのようなものになるだろう。爪句を写真のキャプションと割り切ればこれでよい。しかし、爪句に写真家としての印象を文字として表現しようとすればこれは物足りない。それは重々承知の上で、本爪句集はこの例に挙げたような作品を並べる事になった。
爪句集の出版を続けて来て、新しい作品制作の展開につながる事を期待しながら、爪句発想の原点に回帰しているのは著者としては不満である。しかしながら、50集出版を目の前にして、この爪句集シリーズ出版をここまで続けてこれた事には満足している。
日の出待つ 宗谷岬の 岩場サギ
ドローンを利用して撮影した全球パノラマ写真では、カメラが機体に邪魔され天空部分が写せず黒くなる。黒く抜けた部分に空撮を行った場所で撮った野鳥を貼り付ける写真法を開発中で、過去に撮影した写真を創り直し、新しい作品を加えている。