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2006年12月29日

銭函駅近くの石蔵喫茶店

 銭函駅前の通りをちょっと過ぎたあたりで写真の石蔵を目にする。気になったので引き返して寄ってみるとこれは喫茶店であった。ぽつんと石蔵が取り残されたようにあって、そこに暖簾がかかっている。無料で見ることのできる場所や対象が都会の秘境の条件であったけれど、今回はこの条件を無視することにする。

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 石蔵の扉がそのまま玄関になっている入り口の上の方には魚のレリーフが貼り付けられている。これはこの辺りで捕れる魚「八角」のようだ。かつて漁に使ったガラスの“ダマ”が玄関脇に飾ってある。店名の「大阪屋」が染め抜かれた暖簾をくぐって内に入る。

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 オーナーらしい中年女性がカウンター越しに顔を向けてくる。広くもない店内には彼女だけで、客は誰もいない。外からの明かりは石蔵の窓だけなので元々薄暗い空間に加えて、室内の照明も心もとない。何か秘境の喫茶店に紛れ込んだ感じである。

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 あれこれ考えもせず、コーヒーを注文する。コーヒーが落ちるまで石蔵の由来を聞くと、元々は質屋のもので、質草を保管していた場所である。薄暗い空間に思いのこもった品々がひっそりと置かれていたのである。店内には骨董品まがいのようなものが置かれていたけれど、これは質草とは関係ないだろう。

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 銭函近辺には秘境の候補になるようなところはないかと、コーヒーをすすりながら聞いてみる。ここに長いこと住んでいるらしい女店主に、意外と思われる秘境の定義に合う場所を尋ねても、ここの住人には意外なところなど思いつかないだろうから、はかばかしい答えは得られない。銭函海岸近くのゴルフ場のカントリー倶楽部の辺りは昔は競馬場だったといった話は出てきたけれど、今はその痕跡もないだろう、と締めくくられては取り付く島がない。

 秘境のJR張碓駅には車で行けるかどうかなども聞いてみるけれど、明確な答えが得られない。喫茶店経営者なら無闇にあちらこちらと出歩かないと思われるので、秘境探しで多くを期待しても期待通りにならないのも当然の成り行きである。

 帰り際、二階も覗いていくかといわれたので、二階に登ってみる。ここはアンテーク風な机と椅子が並べられていて、喫茶店の続きとなっている。詰めると二十人くらいは座れそうである。壁の掛かっている年代物の時計には「三馬ゴム株式会社」の社名が入っていて、この会社のゴム長(靴)を履いた昔を思い出した。

 店を出るときに払ったコーヒー代は四百五十円で、こちらはしっかりと現代の都会の料金で、昔の代金でも秘境の代金でもなかった。

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