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2014年09月05日

爪句考 その10

 本爪句集は21集、22集に続いて、パノラマ写真集になっている。そこで爪句の紹介をパノラマ写真との関連で行ってみようと思う。
 パノラマ写真は、カメラを据えた場所から見える全視界を写し取っている。2次元の句集誌面では、パノラマ写真は2次元に展開したものしか示せない、そこで誌面では、パノラマ写真の天地の部分を除いた360°視界を展開した全周写真と、普通のカメラで撮影したように、長方形の画像として切り取った部分写真を並べて表示している。
 一方、爪句集のテキストデータとしては、爪句の他に短文の説明を加えている。このテキストデータと前述のパノラマ写真データを見比べると、説明文がパノラマ写真の全周写真、爪句が全体から切り取った部分の写真と対応させて考えることもできそうである。
 爪句をパノラマの部分写真として考えた場合、部分写真とする意味がどこにあるのかの問いが出てくる。それは爪句を作る意味の問いでもある。その問いに対する答えとしては、1)読者の注意を喚起する、2)撮影者の伝えたい部分を提示する、3)技巧を凝らした面白さの演出、といったところだろうか。
 一番目の答えは、全体写真に全情報が含まれるとしても、いやそれだからこそ写真に含まれる特徴的な場面を一目で見られるようにして、読者の興味を惹くためである。テキストデータにこのことを置き換えて言うと、短文であるとしても文章を読む作業の前に、場面とか状況を爪句17文字で表現されたもので把握できれば、次に文章を読む気にさせるだろう。
 二番目は、表現者としては写真を撮ったり文章を書いたりする動機に関することで、見る人や読者に伝えたいものを提示しようとしている。ブログに写真と爪句を掲載するのは、不特定多数、場合によっては顔の見えている読み手に作品の形式で読んでもらいたいためである。
 三番目に挙げた点は、創作の継続の要点でもある。パノラマ写真処理には時間を要し、特段のテーマが無ければ続けていて飽きがくる。爪句も同じようなものが並べば句作の熱も冷める。そこで、パノラマの全体写真から切り取る2次元写真を、普通のカメラでは写すのが難しい画面にする工夫等を施し切り取る。爪句も説明に主体を置く文章から離れて、17文字で意外性のある描写を試みる。その作品創作のための創意工夫は際限の無いところがあって、何度でも挑戦してみたくなる。
 本爪句集は「北大物語」として北大に焦点を合わせている。一番目の論点については、撮影して北大の景観や対象を一瞥できるようにしている。さらに詳しく見たいとなれば、添付されたQRコードでサイトに入り、パノラマ写真を見て楽しめる。本爪句集は北大のパノラマ写真ガイドブックになっていて、その見出し写真と説明の爪句が並べられていると考えてもらってもよい。
 二番目の点については、これまで北大の写真集やガイドブックでは無かったパノラマ写真集であり句集である点を強調しておきたい。北大は学問の府ではあるけれど、写真や文芸の上でも多くの勝れた素材を提供してくれる場所でもある。その得難い素材を、曲りなりにも表現者を自認している筆者の欲求を解消させる事に利用している。
 北大構内は広く、四季折々の景観を見せてくれるので、同じ場所でも異なるテーマとしてパノラマ写真の作品として残すことができる。場所を少しずらせただけでもテーマは変わってくる場合もある。カメラの前にその時々見せる学生達の姿もある。これらは撮っても、撮っても撮り尽くした感じになることがなく、三番目に挙げた工夫を凝らすための余地が次々と出てくる。今のところ、北大に出向いてのパノラマ写真撮影で飽きるということがない。
 ただ、当然ながら問題点もある。爪句は文芸のカテゴリーに入る作品なのか、それとも17音に形を整えた単なる写真のキャプションなのか、に悩む。パノラマ写真合成に膨大な時間を割いた後で、ごく短時間で句作した爪句はパノラマ写真の整理のためのファイル名の域を出ない感じもしている。元々「爪句」の造語がこのファイル名に発しているとしても、作り続けていると作品と呼ばれる領域に達したいものだと密かに思っている。
 パノラマ写真はスマホやPCの画面で回転や拡大・縮小しながら見て、初めてその面白さを感じ取ることが出来る。本爪句集のような豆本スタイルで小さな写真を並べたものは、パノラマ写真のカタログみたいなところがある。掲載された写真を鑑賞するのは小さな画面で不満が残る。しかし、出版経費のことを考えると、止むを得ないところでもある。
 本爪句集は、北大のパノラマ写真を集めたサイト(http://www.panofudoki.com/?cat=21)にある膨大なパノラマ写真を検索する上でのガイドブックの位置づけでも意味がある。さらに北大のパノラマ写真を撮り続け、将来はもっと本格的なパノラマ写真集の出版につなげていきたいものだと思っている。
 

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