2019年06月03日
爪句集覚え書き―40集
爪句集は本集で40集となる。区切りの良い集でこれまで出版して来て何が残ったのか考える。確かに、A7判の豆本の爪句全40集が、ネット上のコンテンツではなく、紙媒体の手に取ってみられるものとして目の前に存在する。豆本のような本作りが趣味であれば、これは成果に違いない。
しかし、作品に重きを置くとしたら、爪句集に収められた内容が問題である。爪句集に収録した写真は、対象を上手く切り取っているだろうか。パノラマ写真のように全視界を収めた写真でも、紙媒体として印刷することになれば、どの視線方向の対象をどの程度の拡大率で切り取れば、写真で伝えたい事を表現できるだろうか、が問題で、その問題に対処できているだろうか。
写真撮影の状況や対象の説明文や、それから抽出した17文字の俳句形式の写真のファイル名は、説明や単なる見出しの句以上のものを読者に伝えられるのでは、と思ってもみる。特に本集の場合のように、「クイズ・ツーリズム」へ誘う問題集であれば、「ここはどこ」の同じ設問が並ぶ事になりがちである。対象を変えた類似の爪句と説明文が並んでいるだけで、爪句や文章が読者の興味をそそるものから遠いのになってはいないかと心配になる。
本にした爪句集はブログの投稿原稿を元に編集している。このブログ書きは著者の日々の単なる記録なのか、ブログを見る読者を相手に表現活動をしているのか、その軸足の置き方についても立ち止まって考える。前者なら爪句集に収められたものは著者のメモであり、後者なら読者を想定した作品である。実際は、メモと作品との間を行き来しながらこれまでの爪句集が出版されて来ている。
爪句集が生活のメモであれば、費用をかけて本にまでして、メモにしては立派過ぎるものが残った事になり、それはそれで満足感がある。しかし、作品なら、読者からの反応の無い無言のネット空間に投げ込まれた、評価を欠く創作が本の形になっただけである。これでは、著者の満足を除けば、費用に見合った爪句集の“レゾンデートル”が見出せない。
作品は読者を待っている。ネットの世界では作品と読者は直接的に結びつく事が可能となる。ブログにおけるコメントがそれで、匿名(ハンドルネーム)でも実名でも、短くても長くても、ブログ記事に並べて読者の感想を述べる事ができる。コメントはブログ記事の主題から離れても構わない。著者としてはそんな読者を期待するのだが、期待は外れる。
爪句集の出版に係わる人に声を掛けてみる。1か月に1回でも、近い将来に爪句集に変身するブログの記事にコメントを書いてほしいと伝える。爪句集出版の費用は著者が出しているのだから、いってみれば本作り客の要望である。しかし、1行のコメントも無いのには首を捻る。どうしてなのだろうか。まあ、依頼された本の出版を従来通りのやり方で仕上げて、余分な仕事はしたくない、というのも分からないでもない。しかし、40集も出版して来た実績がこの程度のものかと落胆する時もある。
本爪句集のテーマのクイズ・ツーリズムも豆本からネットの世界を介して広がる探訪の世界で、提唱者としては面白いと思っていても、これも読者の共感を呼ばねばアイディアは消えて行く。空撮パノラマ写真という、現時点では特殊な写真技術を組み込んだ爪句集なので、新しい形式の写真集としても評価されても良いとも思っている。しかし、それに対する評価もあまり聞こえてこず、著者の期待はここでも外れる。しかし、個人で全40集の出版は、自分の内では、他人においそれと真似される事のない実績であると思っている。
- by 秘境探検隊長
- at 09:28
comments
「爪句」全40集の完成おめでとうございます。たまたま今回のブログ内容を読ませていただきました。そして、いろいろな意味で考えさせられるものがありました。私も同じようにほぼ毎日ブログを書いておりますが、ほとんど反応はありません。私自身、実用書ともいうべき分野での単行本も何冊か出しております。これまた滅多に反応はありません。一部の著名な作家とか芸能人とかを別とすれば、地味な研究者のブログは毎日読んでくださる人は少ないのが普通で、特に文字数の多いブログは敬遠されるようです。ただたくさんの読者がいるから内容的に良いのかといえばそうとは限らないわけで、数としては少なくても、或いは反応としては乏しくても、必ず何らかの形で評価してくれている人はいるものです。先生の「爪句」という方法が適切かどうかわかりませんが、他に例のない方法と分野であることは事実です。そして今後数十年経ったときには、必ず「素晴らしい記録」として、新たな脚光を浴びるときが来るかもしれません。ハッキリ言って、もうその時には先生も私もいないかもしれませんが、それでも、その価値をわかってくれる人物と、確かな作品が世の中に遺っているのです。
波木星龍様 コメント有難うございます。また爪句集40号出版に際してのクラウドファンディングのご支援も有難うございます。このクラウドファンディングは未だ終わっておらず、リターン(返礼品)の40号も現在出版準備中で、出版後にリターンとして郵送いたしますので、しばらくお待ちください。
波木様も毎日のブログ書きご苦労様です。ブログは読者がいてもコメントはほとんど無いのが普通なのですね。自分を書き手から読者の立場にスイッチすると、読み飛ばしてもコメントを書く気にはならないので、コメントが無いのは理解できます。しかし、費用を支払って、爪句本出版を依頼している出版社の関係者に、今後の出版の事もあるので、たまにはコメントを書いてほしいと直接依頼しても、梨のつぶての状況に戸惑います。出版の依頼客からの話なら、5分か10分のあれば済むコメント書きを無視されると、一般読者の話ではないので、はて?、はて?、はて?となります。同じ出版社から全40集もの爪句集の自費出版をしているブログ子も軽く見られています。まあ、出版担当者は単なる仕事、著者は思い入れのある生き方の一方法、といった差でしょうかね。