2014年01月31日
爪句考・その9
爪句考・その9
写真、文章、句が一体となった「爪句」は、作品にするために推敲の過程がある。三種類の異なる発表形式における推敲について考えてみる。
まず写真である。推敲作業を、作品の仕上げ作業とすれば、写真の場合は選択作業とでも言い換えることができようか。沢山ある同様のテーマの写真の中から、写真集やブログに一番良さそうなものを選ぶ作業である。普通の写真であれば、既に撮った写真を見比べて選択を行う。場合によっては、画像処理ツールで修正、加工を施すこともあろう。
本爪句集の写真は普通の平面写真とは異なるパノラマ写真である。パノラマ写真になると、推敲は単に写真の選択作業ではなくなる。パノラマ写真は、基本的にはコンピュータが多数の写真の張り合わせを行うことで出来上がる。撮影者は張り合わせ操作の設定を行うだけである。元データが正確な位置関係で撮影されていれば、コンピュータによる自動処理だけで最終的パノラマ写真が合成できる。
これに対して、本爪句集のパノラマ写真は三脚無しの手持ちカメラで撮影した写真を用いている。この場合、コンピュータによる自動処理では、往々にして写真のつなぎ目でずれが生ずる。このずれを見た目に不自然でないようにコンピュータ画面を見ながら、手作業で修正を加えて行く必要がある。これをパノラマ写真の推敲作業としておく。
このパノラマ写真の推敲の方針は、写真を現実に一致させようとする作業である。写真のつなぎ目が目につくようであれば、現実に目にし、写真撮影した世界から遠ざかる。つなぎ目をスムーズにさせ、そこに張り合わせという操作が無かったようにしたい。
この張り合わせの修正作業には思考は関係ない。ひたすら目で写真の細部を見ながら作業を進める。単純なゲームを行っている感じにもなる。しかし、この作業は場合によっては膨大な時間を費やす。1枚のパノラマ写真を完成させるため、2時間も3時間も時間をかけることもある。本爪句集はそんな消費時間をパノラマ写真という形に固定したものとも言い換えることができる。
次に写真に付ける文章である。文章の推敲は、文字通りの推敲作業そのものである。ただ、本爪句集の文章は、印刷の関係から110文字・記号を出ないようにとの制限を設けている。この短い文章では、写真の対象やそれを撮影した状況の説明で制限文字数になってしまうことが多い。したがって、事実に誤りが無いかに重点が置かれることに偏りがちとなる。これは記録の正確さが第一義となり、文学的意での推敲作業からは遠くなる。
パノラマ写真に付け加える文章作成は、爪句を作句する準備段階である場合が多い。写真を撮った状況を文章にしてみて、表された語句をつなげてみる。こうした作業で作り出される爪句も多い。この文章作成作業は考える作業であっても、パノラマ写真の頭を使わない修整作業に比べれば、一般にかなり短い時間で済んでしまう。文章が書き終わると爪句が出来ている場合も多い。
さて、爪句である。爪句は俳句や川柳と同じような推敲の過程で作品として形になってくる。しかし、パノラマ写真では、現実世界そのものが提示されている。爪句が文字による単なる写真説明であっては、文芸を意識する作品としては不適格である。
爪句の推敲は、前述のパノラマ写真のもとは逆に、写真に現れている現実そのもの説明ではなく、一捻り効かせたものにすることを心掛けている。パノラマ写真にも写っていない部分や、パノラマ写真でも写せない心象世界を詠んで、パノラマ写真と重ねてみる。パノラマ写真の推敲が連続性を追い求めているのに対して、爪句では不連続な言葉の組み合わせに面白さを見出そうとして推敲を重ねる場合もある。そのため、句が直ぐには思い浮かばないことも多々で、文章より時間がかかることもある。
現実に忠実になろうとするパノラマ写真の推敲、現実の直接的説明を避けようとする爪句表現の推敲、異なる方向に向く推敲作業を行って爪句集の作品群が出来ている。しかし、意図した推敲作業がうまくいっているとは限らない。
多くの時間を費やしているのに、写真張り合わせの破れが目につくパノラマ写真。写真を見ればすぐわかるような、単なる写真の説明。これらは推敲が上手くいかなかった作品のなり損ないともいえる。しかし、作品の良し悪しは読者の判断に委ねられている部分もある。作者が不出来だったと思っても、読者の評価が高いものもあろう。また、その逆もあるかもしれない。
いずれにせよ、写真と句を一体化して爪句集の作品に仕上げていく過程での推敲作業は、「推敲」の言葉を拡張した作業であると思っている。推敲という作業を介して、従来からの文章や句の伝統的な表現形式と新しい技術に基づくパノラマ写真の表現形式の本質的な違いについて考えてみた。それを爪句集の「爪句考」として新たに加えておく。
- by 秘境探検隊長
- at 10:29
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